マンガ評論のためのメモ3

そーいえば今回,「マンガの絵とその伝えるもの」ということについて考える発端となったことについてもメモしておこう.
きっかけとなったことなので,内容は前よりもしょーもないものになるが,動機をはっきりさせておくことも悪くはないだろう.

きっかけは「ヒカルの碁」(画:小畑健,原作:ほったゆみ)と「ユート」(画:河野慶,原作:ほったゆみ).
ヒカルの碁」が碁という地味極まりない題材にもかかわらず,単行本は23冊にのぼり,発行部数は2000万部を超え,小学生の間に囲碁ブームを引き起こすほどのヒット作となった.
一方,「ユート」は単行本3冊,ジャンプ連載期間は20話分程度で打ち切られた.

この現象を見て,原作が同じでも作画が違うことでここまで売れ方も変わってしまうのかと感じざるを得なかったわけだ.「ユート」のほうが連載開始時の話の展開が遅かったために,序盤に人気をつかめなかったということもあるのだろうから,「ユート」が人気を得られず打ち切られた原因を作画のみに求めることはできないだろう.なのでこのことは,個人的にはこのことで作画と内容の関係性の重要さをはっきりと感じたということがあったという覚え書です.

しかし,個人的には20〜30年前ならともかく現在はスポーツ,格闘マンガを描く上ではある程度以上のリアルな絵柄が要求されるのではないかと思っている.
比較的最近(10年くらい)のスポーツマンガをあげて少し考えてみる.

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アイシールド21
これは連載前の読み切りで初めて見た時からいい作品だと思った.
話は,不良にパシリにされている主人公が常にパシらされていたせいで足が鍛えられ,知らず知らず足が超早くなっていて,無理矢理誘われてやってみたアメフトで大活躍するというもので,少年マンガの王道的なものだ.
初めて見たときから思ったのは,画が非常にうまいということ.この「うまい」というのは,なにも写実的に非常にリアルというわけではない.私が感心したのは場面の見せ方だ.走ったときの土ぼこりなどの効果の面や,アングル,構図を工夫することでの見せ方がすばらしいのだ. これは前提として,人間の骨格はしっかりとしていて描かれている人物の動きにある程度のリアリティがあるといううまさもあるが.
ストーリーのほうも,主人公たちが苦労しながら部員(仲間)を獲得していったり,努力して力をつけライバルを打ち破るといった王道的展開をテンポよく進めていてよくできている.「友情・努力・勝利」がうまいこと盛り込まれているわけですね.

「P2」(江尻立真)
ジャンプの卓球マンガ.
画はキレイめで,シンプルで,かわいい感じ.これだけじゃ分かりにくいけども,絵柄を言葉で説明するのは難しいのでまぁいいや.
曖昧な言い方だが,あまりリアルでなくシンプル気味という意味で絵柄のタイプ的には「ユート」に近いとも言える.
画のタイプ的にこういうものを好む人もいるし,下手なわけではない.こういうものを好みそうな読者を狙ったシーンなんかも盛り込みつつ1年は続いたが,打ち切り.

ファンタジスタ」(草場道輝)
サンデーのサッカーマンガ
画,話ともにうまかったので単行本25冊まで続き,大ヒットではなかったけれどもサッカー好きには結構知られることになった.
「見上げてごらん」(草場道輝)
ファンタジスタのあとに同作者が連載したテニスマンガ.
画は問題なかったが,単行本8冊で打ち切り終了.
作者はもともとサッカーは好きだった(やってた経験もあるのかも)のに比べ,テニスは出版社側に話を持ちかけられ,テニスクラブに通って勉強した.
安易かもしれないが,このあたりの差が,話作りにも影響していると考えられる.何にせよ,「見上げてごらん」は「ファンタジスタ」に比べストーリー面に問題があったということだろう.

「ゴールデンエイジ」(寒川一之)
サンデーのサッカーマンガ.
画があまりうまいとはいえない.連載開始時,私はサッカーでこの絵柄ではすぐに打ち切られるのではと思ったが,話がそれなりに良いせいか2年半ほどサンデーで連載され,現在もウェブ配信として続いている.

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こういう実情を見ているとやはり,特に少年誌のスポーツマンガはある程度の画が要求されると言えるのではなかろうか.
画がイマイチでも,話がよければそれなりに続くけれども,ヒットは難しい.
スポーツ・格闘のジャンルではやはり,マンガを見て身体性を感じられることが重要だろう.身体性を感じられると言うのは,骨格や筋肉があるということをその画を見て感じられるということだ.見る側はそこに自分の身体性とも通じうる,ある意味でのリアリティを感じ,実感を伴った迫力を感じられることになるのだ.

例外的な作品で腐女子人気に支えられたと言う某テニスマンガがあるが,あんまり言うと怒られそうなのでアレですが.あの作品は本当に珍しい例だと思うけれども,普通の人からしたらあの絵でも「それなりにリアル」な部類に入るのだろうか?
自分としてはあの画はデッサンがアレで,しかも連載かなりやってたのにそんなにうまくならなかったから釈然としないものがあるけれども.

で,つまりは画と内容のマッチングは非常に重要だということですね.

また,小畑健の「ラル・グラド」が単行本4冊で打ち切り終了したことを考えても,当然,画だけでもダメなんですねぇ.小畑健本人が一人でやってたときのことを考えても.
さらに付け加えると小畑健の絵はバトル向きではないのかもしれない.
デスノート」も「ヒカルの碁」もハデなアクションシーンがあるものではなかったし.

こんなことから,今回の「マンガの絵とその伝えるもの」について考えることに至ったのだなぁと再確認をした.
ジャンル別に,さらには時代別,ジャンル内での時代的変化とかも含めて検討するのも面白そうだ.
オタク向けの画とかなんてはっきりしてたりするし.腐女子向けとか,少女マンガとかもあるし.

自分は若輩者だが,オタクとか腐女子向けのものにも触れたら,先人たちが行っていない新しい考察ができるのかもしれない.
しかし,自分はオタク向けにも腐女子向けにも強くない…
前途多難…